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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)239号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第四ないし第六号証によれば、本願発明は発光スクリーンと、このスクリーンの領域を選択的に付勢して発光させるための手段とを備えた映像表示装置に関するもの(本願発明の特許出願公告公報第二欄第四行ないし第六行)であつて、この装置に関する従来技術である第一引用例記載のものは、比較的明るい雰囲気中でスクリーン上の映像のコントラストを改善するために、赤放射素子の前面に別の層を形成するか、あるいは各赤放射蛍光体粒子全体を薄い被覆、すなわち層によつて被覆する等の方法によつて、赤放射素子の前面に赤透過カラー・フイルターを配置するものであるが、蛍光体粒子を被覆するフイルタ層は蛍光体粒子からの放射光を多く吸収するため、映像がその蛍光体粒子で得られる明るさよりもかなり暗くなるという欠点があつた(同公報第二欄第一二行ないし第二九行)との知見に基づき、この欠点を除去することを目的として、本願発明の要旨とする構成を採用したものであり、特に「各蛍光体粒子をフイルタ粒子によつて部分的に被覆することにより、可視スペクトルの個々の部分における光の透過性、吸収性、反射性を、比較的明るい雰囲気中で最適の明るさとコントラストを持つた表示像が得られるように変えることができる」(同公報第三欄第一行ないし第六行)という作用効果を奏することができるものであることが認められる。

2 原告は、審決摘示の、本願発明と第二引用例記載のものとの相違点<1>、すなわち、本願発明では蛍光体粒子の表面にカラー・フイルタ粒子の被覆処理によつて可視スペクトルの特定部分の光を透過させるカラー・フイルタ粒子が被着されているのに対し、第二引用例記載のものでは、カラー蛍光体と、対応する色のカラー・フイルタ材料とを混合している点についての審決の認定、判断が誤りである旨主張するので、まずこの点について判断する。

成立に争いのない甲第八号証によれば、第二引用例記載のものは、カラー・テレビジヨン画像再生器用の新しい改良された多色ターゲツト構造に関する発明であつて(第一欄第九行ないし第一一行)、画像の明るさを実質的に損うことなしに、再生された画像で得られるコントラスト比を有効に増加させることを目的とし(同欄第四四行ないし第四八行)、第二引用例のFIG4(別紙図面(三)参照)に示された実施例には、カラー・ターゲツト素子は、蛍光体(粒子)とカラー・フイルタ材料(本願発明の「カラー・フイルタ粒子」に相当する。)との均一な混合体によつて形成され、その際にカラー・ターゲツト素子の厚さはカラー・フイルタ材料の少なくとも一部が発光材料(蛍光体粒子、以下「蛍光体粒子」という。)とフエースプレート20表面との間に介在するような充分な厚みになるように選択され(第六欄第一五行ないし第一九行)、この構成によつて、コントラスト値が増し全体的な画像の輝度は僅かに減衰するかあるいは全く減衰しない(同欄第三六行ないし第三九行)という作用効果を奏するものである旨記載されていると認められる。

また、成立に争いのない甲第七号証によれば、本願明細書に従来技術として摘示されている第一引用例記載のものは、発光スクリーンの赤色成分の輝度を損うことなく、再生画像のコントラストを増大させることを一つの目的とするものであり(第二欄第一七行ないし第二二行)、第一引用例には、発光スクリーンは蛍光体粒子とカラー・フイルタ材料(顔料)との緊密で均一な混合物で形成することが好ましく、その際に、顔料は各蛍光体粒子を薄い被覆又は層として囲んでおり(第五欄第二七行ないし第三三行)、この構成によつて、従来のものに比べて、赤色について輝度を三〇%向上させ得る(第六欄第四行ないし第七行)という作用効果を奏するものである旨記載されていると認められる。

そして、前掲甲第七及び第八号証によれば、第二引用例及び第一引用例には、いずれも右認定のとおり蛍光体(粒子)とカラー・フイルタ材料の混合体を用いることが開示されるだけで、その構成の有する欠点については認識するところがなく、また、蛍光体粒子の表面にカラー・フイルタ材料を被覆処理することについては何らの記載も示唆も存しないことが認められる。

右認定事実によれば、第二引用例及び第一引用例記載のものは、いずれも輝度を低下させることなくコントラストを改善することを目的とした技術手段であつて、それらの手段は各蛍光体粒子間及び蛍光体粒子とフエースプレートとの間にそれぞれカラー・フイルタ材料を介在させ、右カラー・フイルタ材料が所望の色の光を透過させるとともに、不所望の色の光を減衰させる性質を利用して、右目的を達成するものであるが、カラー・ターゲツト素子の具体的な構成については、第二引用例及び第一引用例には、いずれも蛍光体(粒子)とカラー・フイルタ材料との混合体から成るカラー・ターゲツト素子を用いることが開示されているにすぎず、この記載から直ちに本願発明のような蛍光体粒子の表面にカラー・フイルタを被覆処理によつて被着したカラー・ターゲツト素子を用いることを予測することはできない。

しかしながら、本件優先権主張日当時、第二引用例及び第一引用例記載の前記技術手段の欠点、及びその改善のために本願発明のような技術手段を採用できることが当業者に知られていたものと認められるときは、第二引用例記載の混合処理に代えて蛍光体粒子表面にカラー・フイルタ粒子を被覆する構成を採用することは当業者にとつて格別困難なことではない。

右の点に関し、審決は、「本願明細書本文中に記載の被覆処理は、その説明中にも明記されているように、蛍光体粒子の表面に光吸収体を被着せしめる通常の工程(例えば、米国特許第三、二七五、四六六号明細書参照)でしかない」と認定し、さらに、被告は、右工程が本件優先権主張日当時周知であつたことは、米国特許第三、五四四、三五四号明細書の記載事項からも明らかである旨主張するので検討すると、前掲甲第四号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明中には、「フイルタ粒子被覆蛍光体粒子は通常の工程によつて調製される。(中略)米国特許第三、二七五、四六六号中には、調整された量のフイルタ粒子を蛍光体粒子の表面上に被着させる実用的な過程が示されている。」(第七欄第一七行ないし第二二行)と記載されていることが認められる。そして、成立に争いのない甲第九号証によれば、米国特許第三、二七五、四六六号明細書記載のものは、基体表面上に蛍光体粒子のようなコロイド状粒子の非常に薄い層を形成する方法に関するものであつて、右明細書には、比較的大きな粒子や広い面(例えば、蛍光体ベース粒子やガラスビーズ)の表面に吸着性材料(例えば、蛍光体粒子)を被着させることが開示されていると認められるから、このような技術手段は、蛍光体粒子表面にカラー・フイルタ粒子を被着させる技術そのものではないが、この技術に応用できるものであり、したがつて、この技術手段から本願発明の技術手段を類推することができるというべきである。さらに、成立に争いのない乙第一号証によれば、米国特許第三、五四四、三五四号明細書記載のものは、カラー陰極線管の遮蔽に使用されるべき蛍光物質組成物を製造する新規な方法に関するもの(第一欄第二六行ないし第二八行)であつて、従来技術として第一引用例を挙げた上(同欄第三六行、第三七行)、従来スクリーンに赤色蛍光体物質と顔料(カラー・フイルタ)との混合物を用いると顔料がスクリーン製造作業中に青色や緑色の蛍光体物質を汚染するという欠点があつた(第二欄第一九行ないし第二四行)ので、この欠点を除くために所定の波長の光を発する蛍光体物質の粒子を右波長の光以外の可視スペクトル内の光の吸収率の高い顔料で被覆したもので構成される蛍光体組成物を製造する新規な方法を提供すること、及び結合していない、すなわち、遊離した微細な顔料粒子が存在しないような蛍光体組成物を製造する方法を提供することを目的とし(第二欄第三五行ないし第四九行)、特許請求の範囲1に記載されたとおりの「所定の波長の可視光を発する蛍光物質の粒子を、前記所定の波長の光を除く可視スペクトル内の光の吸収率が高い顔料で被覆したものを成分として有する、カラー陰極線管の遮蔽に使用するための蛍光物質組成物を製造する方法において、ある量の前記蛍光物質粒子と、ある量の顔料の粒子とを、前記蛍光物質粒子及び前記顔料粒子が溶解しない中性液体の中に懸濁させ、前記顔料粒子が前記蛍光物質粒子に対して小形である工程と;前記蛍光物質粒子及び前記顔料粒子が前記液体中に懸濁したままである間に、前記液体に溶解しない接着剤無機質ゲル被膜を前記粒子にその場で形成する工程と;前記液体中に依然として懸濁する状態にある間に、ゲルで被覆された顔料の粒子をゲルで被覆された蛍光物質の粒子に結合させ、それらを被覆させるために、前記液体を攪拌する工程と;顔料で被覆された蛍光物質粒子を上澄み液から取り出し、前記ゲル被膜を脱水して、前記顔料粒子の前記蛍光物質粒子への接着力を増強するためにそれらの蛍光物質粒子を加熱する工程;とから成る方法」(第六欄第一一行ないし第三四行)を採用したものであつて、その実施に当たつては、ある量の蛍光体物質粒子と、それに関連した量の顔料とを中性液体(脱イオン水)の中に懸濁させ、その場で蛍光体物質粒子と顔料粒子に接着剤被膜が形成されるが、この処理工程は、強い塩基性溶液と右溶液と反応して無機質ゲルを形成することができる陰イオンを含む塩溶液との混合により容易に実施され、次に、蛍光体物質と顔料粒子の懸濁液は、接着剤被膜が形成されている間か又はその後に攪拌され、それにより顔料の粒子は蛍光体物質粒子に接着して被覆し、その顔料で被覆された蛍光体物質粒子を上澄み液から取り出し乾燥させる(第三欄第三二行ないし第四欄第四五行)ことが開示されていると認められ、右明細書記載の工程は、その具体的な手段に違いを有するものの、本願発明の構成と同様に蛍光体粒子の表面にカラー・フイルタ粒子を被覆処理によつて被着するものというべきである。

以上の認定事実によれば、本件優先権主張日当時、第二引用例及び第一引用例記載の前記技術手段、すなわち蛍光体(粒子)とカラー・フイルタ材料との混合体から成るカラー・ターゲツト素子を用いることの技術的欠点は、当業者に知られており、その欠点を除くために本願発明のようにあらかじめ蛍光体粒子の表面にカラー・フイルタ粒子を被覆処理により被着する工程は、当業者にとつて通常の工程であつたということができる。

したがつて、第二引用例記載の混合処理法に代えて蛍光体粒子表面にカラー・フイルタ粒子を被覆する構成を採用することは、当業者にとつて容易になし得ることというべきであるから、この点について格別創意を要したとは認められないとした審決の認定、判断に誤りはない。

3 次に、原告は、審決摘示の、本願発明と第二引用例記載のものとの相違点<3>、すなわち、本願発明では、蛍光体粒子及びカラー・フイルタ粒子は、カラー・フイルタ粒子を持たない同様な蛍光体粒子の層に比して、前記フイルタ粒子被覆蛍光体粒子の層からの可視スペクトル光に対する反射率の減少の割合が可視スペクトルの前記特定部分の光を発するその層からの蛍光発光出力の損失率の二倍を越える値となるような寸法比と重量比とを有しているのに対し、第二引用例記載のものでは、スクリーン面に入射する周囲光は効果的に吸収されるが、像の輝度は僅かに減衰されるかあるいは全く減衰されることのないものである点についての審決の認定、判断が誤りである旨主張するのでこの点について判断する。

(一) 前記本願発明の要旨によれば、相違点<3>に関して、本願発明が要旨とする構成は、「(ⅰ)フイルタ粒子被覆蛍光体粒子は、蛍光体粒子の表面にカラー・フイルタ粒子の被覆処理によつて可視スペクトルの特定部分の光を透過させるカラー・フイルタ粒子が被着されて成り、(ⅱ)右カラー・フイルタ粒子は右蛍光体粒子の表面を部分的に覆つており、(ⅲ)右蛍光体粒子及びカラー・フイルタ粒子は、カラー・フイルタ粒子を持たない同様な蛍光体粒子の層に比して、右フイルタ粒子被覆蛍光体粒子の層からの可視スペクトル光に対する反射率の減少の割合が可視スペクトルの右特定部分の光を発するその層からの蛍光発光出力の二倍を越える値となるような寸法比と重量比とを有している」ことにあり、前掲甲第四ないし第六号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明中には、(ⅰ)本願発明の構成要件を満たす赤蛍光体粒子とカラー・フイルタ粒子及び青蛍光体粒子とカラー・フイルタ粒子との間の寸法比と重量比は、各粒子の寸法によつて異なるが、一例として、蛍光体粒子とカラー・フイルタ粒子の重量比を一定とした場合、蛍光体粒子及びカラー・フイルタ粒子の寸法をそれぞれ変えたときの、蛍光体粒子の表面に被覆されるカラー・フイルタ粒子の割合は別表1及び別表2のとおりであること、(ⅱ)蛍光体粒子、カラー・フイルタ粒子には各種の寸法のものが混在しているので、別表1及び別表2に示す被覆度を得るための各粒子の重量比は、異なる寸法の粒子の混在状況によつて種々変化するが、要は、カラー・フイルタ粒子を設けたことによる反射率の減少の割合が同じ可視スペクトルの蛍光発光出力の損失率の少なくとも二倍を越えるように右蛍光体粒子とカラー・フイルタ粒子との寸法比、重量比が定められていればよいこと、(ⅲ)蛍光体粒子の表面をカラー・フイルタ粒子で部分的に被覆すると反射率の減少の割合が発光出力の損失率の二倍を越える理由は、カラー・フイルタ粒子で部分的に覆われた蛍光体粒子相互間の空間がそれぞれ小さな光トラツプとして働き、この光トラツプ内で外界からの入射光が何回も反射し、大きく減衰して出て行くのに対して、蛍光発光出力はカラー・フイルタ粒子を全く通過することなく、あるいは一回だけ通過して出て行くためであること(昭和五九年七月二三日付手続補正書第四頁第五行ないし第五頁第一六行、第六頁第一三行ないし第七頁第一一行)が記載されていると認められる。

これに対し、第二引用例記載のものの技術的課題、構成及び作用効果は、前記2認定のとおりであるが、さらにそのターゲツト構造について具体的に検討すると、前掲甲第八号証によれば、第二引用例記載のものは、蛍光体粒子とカラー・フイルタ材料とによつてターゲツト構造を構成するが、この場合、カラー・フイルタ材料と蛍光体粒子とが個別に層を形成しても、前記2認定のように、それらが互いに混合されてもよく(第二欄第三二行ないし第三七行)、いずれの場合においても、このターゲツト構造が重要な動作上の利点をもたらすのは、蛍光体粒子とスクリーン表面との間にカラー・フイルタ材料が介在していることであり(第四欄第四三行ないし第四六行)、蛍光体粒子とカラー・フイルタ材料を混合する場合、互いに緊密に混合されなければならず、また、カラー・フイルタ材料の少なくとも一部が蛍光体粒子の大部分とフエースプレート20との間に介在するように充分厚くされなければならない(第六欄第一五行ないし第一九行)のであつて、第二引用例には、右構成によつて従来のこの種のものに比べてコントラスト値が増し全体的な画像の輝度は僅かに減衰するかあるいは全く減衰しない(同欄第三六行ないし第三九行)という作用効果を奏するものと記載されていることが認められる。

右認定事実によれば、第二引用例記載のものは、ターゲツト構造を混合処理法によつて形成する場合に、蛍光体粒子とカラー・フイルタ材料(カラー・フイルタ粒子)によつて部分的に被覆されたような状態になる結果、蛍光体粒子とスクリーン表面との間にカラー・フイルタ材料が介在しなくなるという技術上の欠陥が生じるために、どうしても蛍光体粒子とカラー・フイルタ材料とから成るターゲツト構造の厚みを充分に厚くしなければならないものであつて、右混合処理法によつて得られる蛍光体粒子がカラー・フイルタ材料によつて部分的に被覆されている態様は、第二引用例記載のものが本来得ようとしている態様に相当しないことは明らかである。

一方、前記認定事実によれば、本願発明は、第二引用例において技術上の欠陥とされていた蛍光体粒子のカラー・フイルタ粒子による部分的な被覆の態様をむしろ積極的に採用し、かつ、右部分的に被覆されて成る蛍光体粒子の被覆の程度を選択することにより、右技術上の欠陥が逆に利点になるようにしたものであつて、本願発明の場合には、蛍光体粒子とカラー・フイルタ粒子とから成るターゲツト構造の厚みを通常のものより充分に厚くする必要はないものであるから、本願発明と第二引用例記載のものとは、蛍光体粒子がカラー・フイルタ粒子によつて部分的に被覆されているという態様において類似するものの、蛍光体粒子をカラー・フイルタ粒子によつて部分的に被覆するための技術的思想は互いに異なつているものというべきである。

また、本願発明と、第二引用例記載のものに米国特許第三、五四四、三五四号明細書(前掲乙第一号証)記載の周知事項を適用したものと比較すると、第二引用例記載のものは蛍光体粒子とスクリーン表面との間に必ずカラー・フイルタ材料を介在させるようにしたターゲツト構造を得ようとするものであり、また、右周知事項は、混合処理法によつてターゲツトを製造する際に、遊離した特定の色の顔料粒子(カラー・フイルタ粒子)によつて他の色の蛍光体物質が汚染されてしまうという欠点を除くために、右遊離した顔料粒子を接着被膜を用いることによつてすべて蛍光体物質に被着させ、右遊離した顔料粒子をなくするようにしたものであるから、第二引用例記載のものに右周知事項を適用したものは蛍光体粒子にカラー・フイルタ材料をできるだけ多く被着させたものであつて、本願発明のように、蛍光体粒子とカラー・フイルタ材料の寸法や重量を選択し、しかる後に蛍光体粒子に被着されるカラー・フイルタ粒子の被着量を特定しているものではない。してみれば、第二引用例記載のものに右周知事項を適用したものは、本願発明を示唆していると認められないばかりか、蛍光体粒子をカラー・フイルタ粒子によつて部分的に被覆させるというその技術的思想も本願発明の技術的思想とは異なつているというべきである。

そして、本願発明と、第二引用例記載のもの又はこれに右周知事項を適用したものとは、蛍光体粒子とカラー・フイルタ粒子によつて部分的に被覆する技術的思想を異にしている以上、これら異なる技術的思想に基づいて構成された本願発明のカラー・フイルタ粒子によつて部分的に被覆された蛍光体粒子の奏する前記認定の作用効果と、第二引用例記載のものの奏する作用効果との間に格別の作用効果の差異がないということはできない。

したがつて、本願発明の相違点<3>に関する構成は、第二引用例記載のものから容易に想到し得たものということはできない。

(二)(1) 被告は、審決認定の所期の目的について、反射率の減少の割合、蛍光発光出力の損失率、及びそれらの比の具体的な数値を示し、蛍光面において、カラー・フイルタ粒子の光吸収以外の損失が僅かに生じれば、反射率の減少の割合が発光出力の損失率の二倍であつたものが二倍を越え、本願発明で特定している数値内の損失が第二引用例記載のものにおいても生じることは明らかである旨主張する。

しかしながら、被告の示す数値は、第二引用例に記載された数値ではなく、被告の推論した仮定に基づく数値であつて、このような数値を根拠にして本願発明と第二引用例記載のものとの機能の異同を判断することはできないから被告の右主張は理由がない。

また、被告は、本願明細書中には、反射率の減少の割合が損失率の二倍を越えるような蛍光体粒子とカラー・フイルタ粒子との寸法比及び重量比について、具体的にどのような数値範囲のものが見いだされたかの開示がない旨主張する。

しかしながら、前記(一)認定のとおり、本願明細書には、蛍光体粒子とカラー・フイルタ粒子の重量比を一定にした場合における、蛍光体粒子とカラー・フイルタ粒子の各寸法に対して、蛍光体粒子の表面をカラー・フイルタ粒子によつて被覆する割合が別表1及び別表2に示されており、また、蛍光体粒子、カラー・フイルタ粒子には各種の寸法のものが混在しているので、右別表に示す被覆度を得るための各粒子の重量比は、異なる寸法の粒子の混在状況によつて種々変化すること、カラー・フイルタ粒子を設けたことによる反射率の減少の割合が同じ可視スペクトルの蛍光発光出力の損失率の少なくとも二倍を越えるように右蛍光体粒子とカラー・フイルタ粒子との寸法比、重量比が定められていればよいことが記載されている。したがつて、本願明細書には、本願発明の対象としている蛍光体粒子とカラー・フイルタ粒子のすべての寸法比、重量比についての具体的な数値、又はその数値範囲は示されていないが、その理由は、蛍光体粒子やカラー・フイルタ粒子の寸法、比重が種々雑多であるため、対象とするすべての組合わせを記載できないからであると考えられ、右のような場合は、明細書に、それらの組合わせ中の特定のものだけを示し、その代わりに対象としている範囲又は作用効果を記載してその余の組合わせの開示を省くことは通常許容されているところであるから、被告の右主張は理由がない。

(2) 被告は、審決認定の部分的被覆の蓋然性について、蛍光体粒子の表面にカラー・フイルタ材料を被着させるに当たり、第二引用例記載のものは、本願発明と異なり、蛍光体粒子の表面を吸着性フイルムで被覆するものでないから、本願発明の部分的被着を越えた全面被着に近いものであるとするのは不自然であり、また、そのことは第二引用例に関連した第一引用例に記載の数値からみて明らかである旨主張する。

しかしながら、本願発明と第二引用例記載のものとは、蛍光体粒子をカラー・フイルタ粒子によつて部分的に被覆することの技術的思想を全く異にするものであることは前述のとおりであるから、両者の蛍光体粒子へのカラー・フイルタ粒子の被着度の大小を論ずることは意味のあることとはいえない。しかも、第二引用例記載のものでは前記(一)認定のように蛍光体粒子とスクリーン表面との間にカラー・フイルタ材料を介在させる必要があることを考慮すると、第二引用例記載のものの蛍光体粒子のスクリーン表面側は全面的にカラー・フイルタ材料で被覆されているのに等しいのに対して、本願発明の同様の箇所は部分的な被覆が行われているにすぎないといえるから、この点をみた限り、第二引用例記載のものは本願発明より被覆度が大きいことになり、また、前掲甲第七号証によれば、第一引用例には、混合例として、九七・五%の蛍光体スラリーの中に二・五%の赤顔料(カラー・フイルタ材料)を混入することが示されているが、その蛍光体粒子とカラー・フイルタ材料の比重や粒径については記載されていないことが認められるから、第一引用例記載のものの被覆度は不明という他なく、被告の右主張は理由がない。

また、被告は、第二引用例記載のものは蛍光体粒子がカラー・フイルタ材料で被覆される割合が低いため、これを補う構成として蛍光体層の厚みを厚くしているものである旨主張する。

しかしながら、前記(一)認定のとおり、第二引用例記載のものは、蛍光体層を通常の厚みにすると、蛍光体粒子とスクリーン表面との間にカラー・フイルタ材料が介在しないことが生じるために蛍光体層の厚みを通常のものよりも充分厚くしているもので、蛍光体層の厚みを充分厚くする理由が被告主張のような理由であつたとしても、そのことから直ちに、カラー・フイルタ粒子によつて部分的に被覆された蛍光体粒子の右被覆の程度を選択してなる本願発明を類推できるとはいえないから、被告の右主張は理由がない。

さらに、被告は、第二引用例について、審決はそのFIG4に記載の実施例を引用しているだけであるから、FIG2に記載の実施例を参酌する必要はない旨主張する。

しかしながら、前掲甲第八号証によれば、第二引用例には、FIG2(別紙図面(三)参照)記載の実施例とFIG4記載の実施例とが並列されているが、第二引用例記載のものはFIG2記載の実施例の技術手段、すなわち、蛍光体粒子とスクリーン表面との間にカラー・フイルタ材料を介在させることを基本とし、FIG4記載の実施例においても右技術手段を必須の事項としていることが認められるから、FIG4記載の実施例をみるに当たつて、その根底にあるFIG2記載の実施例の技術手段を考慮する必要があることは当然であるから、被告の右主張は理由がない。

さらに、被告は、第二引用例記載のターゲツト構造において、蛍光面の形成前には蛍光体粒子とカラー・フイルタ材料とが良く混合されている筈であるから、蛍光体粒子に対するカラー・フイルタ材料の被着の度合は、蛍光面全体で均一になる旨主張する。

しかしながら、蛍光体粒子とカラー・フイルタ材料との混合物を、受像管のフエースプレートに塗布して蛍光面を製造する場合に、右混合物を塗布した後、それが乾くまでの期間について考えると、右塗布した混合物の層が始めに乾くのはフエースプレートと反対の面、すなわち、開放されている面からであつて、溶媒の気化とともにカラー・フイルタ材料の一部は蛍光体粒子の表面に沈着するが、残余のカラー・フイルタ材料は未だ気化していないフエースプレートに近い側にある溶媒中に移動し、以後残りの溶媒の気化に伴つて、それらは最後にフエースプレート上に多く沈着するものと考えられる。また、第二引用例記載の混合処理法においては、前記(一)認定の技術手段からみて、完成された蛍光面における蛍光体粒子の密度分布は、各蛍光体粒子の表面にカラー・フイルタ材料を被覆したものを用いて構成した場合と異なり、フエースプレート面全体にわたつて必ずしも一定になるとは考えられないから、第二引用例記載のものの蛍光面における蛍光体粒子とカラー・フイルタ材料の分布は面全体に均一であるとはいえない。したがつて、被告の右主張は理由がない。

(3) 被告は、審決認定の発光出力の損失率について、第二引用例記載のものにおいて、全面的にカラー・フイルタ材料で被覆されている蛍光体粒子が部分的に被覆されている蛍光体粒子よりもはるかに多いと考えることは不合理であり、像の輝度が僅かに減衰されるかあるいは全く減衰されることがない部分がスクリーン全体に存在することになるから、本願発明と第二引用例記載のものの発光出力の損失率に差異を認めることはできない旨主張する。

しかしながら、本願発明の蛍光体粒子は、フエースプレート前面からみた場合に、カラー・フイルタ粒子によつて部分的に被覆されているのに対して、第二引用例記載の蛍光体粒子は、同じ箇所からみた場合に、蛍光体粒子とフエースプレートとの間に必ずカラー・フイルタ材料が介在しているから、実質的にカラー・フイルタ材料によつて全面的に被覆されているということができ、そうであれば、本願発明における発光出力の損失率と第二引用例記載のものの右損失率とは、当然に異なるものというべきであつて、被告の右主張は理由がない。

(4) 被告は、審決認定の蛍光体粒子相互間の空間について、蛍光体粒子のように粒子状のものをフエースプレート上に被着した場合、米国特許第三、二七五、四六六号明細書のFig8記載のように、粒子間に空間が生じるのは当然であり、また、そのことは第二引用例に関連する第一引用例記載の材料の比率を示す数値からも明らかである旨主張する。

しかしながら、前掲甲第八号証によれば、第二引用例には、蛍光体粒子やカラー・フイルタ材料のフエースプレート上での被着状態が示されていないことが認められるので、それらの被着時の具体的態様は明白であるとはいえないが、第二引用例記載のものが前記(一)認定の混合処理法を用いているところからみて、それらの被着状態は、蛍光体粒子の間にカラー・フイルタ材料が詰まつており、しかも、その詰まつた状態はフエースプレートに近い程密度が大きくなつており、逆に蛍光体粒子間に形成される空間は、フエースプレートに近い程少なくなつているものと考えられるから、必ずしも被告主張のような状態になつているということはできない。また、第一引用例には、蛍光体材料九七・五%に対してカラー・フイルタ材料二・五%の記載はあるが、これらの材料の比重や粒径が全く不明であることは前述のとおりであるから、このような数値によつて蛍光体粒子とカラー・フイルタ材料との被着状態を判断することはできない。したがつて、被告の右主張は理由がない。

(5) 被告は、審決認定の光トラツプ作用について、大粒径の蛍光体粒子と小粒径のカラー・フイルタ粒子とが混在し、カラー・フイルタ粒子が部分的に蛍光体粒子を覆つている構成は、蛍光体粒子単体のものから成る構成に比べて光トラツプ作用が顕著に生じるから、第二引用例記載のものが光トラツプ作用を奏することは明らかである旨主張する。

しかしながら、前掲甲第四ないし第六号証によれば、本願発明の作用として説明された光トラツプは、本願明細書の記載から明らかなように、「外界からの入射光が何回も反射し、大きく減衰して出て行くのに対し、蛍光発光出力はフイルタ粒子を全く通過することなくあるいは一回だけ通過して出て行く」(昭和五九年七月二三日付手続補正書第五頁第一三行ないし第一六行)ことで、右作用は蛍光体粒子にカラー・フイルタ粒子を所定の態様で部分的に被覆することによつて得られるものと認められる。これに対して、第二引用例記載のものは、前記(一)認定のとおり、蛍光体粒子がカラー・フイルタ材料によつて部分的に被覆されているものもあるとしても、その被覆は右所定の態様で行つたものではない以上、本願発明と同様な光トラツプ作用を奏し得ないというべきであるから、被告の右主張は理由がない。

(三) 以上のとおりであるから、審決は、本願発明と第二引用例記載のものとの相違点<3>について判断するに当たり、本願発明と第二引用例記載のものとの技術的思想の相違を看過するとともに、本願発明の奏する顕著な作用効果を看過した結果、本願発明は第一引用例及び第二引用例に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものと誤つて判断したものであるから、違法であつて、取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

発光スクリーンと、この発光スクリーンの領域を選択的に付勢して発光させるための手段とを有し、前記発光スクリーンは付勢されると可視スペクトルの特定部分の光を放射するフイルタ粒子被覆蛍光体粒子の層から成り、

前記フイルタ粒子被覆蛍光体粒子は、蛍光体粒子の表面にカラー・フイルタ粒子の被覆処理によつて可視スペクトルの特定部分の光を透過させるカラー・フイルタ粒子が被着されて成り、

前記カラー・フイルタ粒子は前記蛍光体粒子の表面を部分的に覆つており、

また前記蛍光体粒子及びカラー・フイルタ粒子は、カラー・フイルタ粒子を持たない同様な蛍光体粒子の層に比して、前記フイルタ粒子被覆蛍光体粒子の層からの可視スペクトル光に反射率の減少の割合が可視スペクトルの上記特定部分の光を発する層からの蛍光発光出力の損失率の二倍を越える値となるような寸法比と重量比とを有している、映像表示装置。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

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